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福岡地方裁判所 昭和41年(ワ)835号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、請求原因事実は、全て当事者間に争がない。

二、抗弁について

1、被告と原告の間で、原告が請求原因2において主張する約定のほかに、被告は原告に対して控訴審における手数料として金一〇万円を支払う旨約し、被告は原告に対し昭和三八年五月三日右手数料金一〇万円を支払つたこと、福岡高裁判所が本件被告を原告とし、訴外城戸ハルコを被告とする所有権移転登記請求権保全仮登記抹消登記手続請求控訴事件につき、同三八年五月七日付で控訴人城戸ハルコに対してなした控訴状却下の命令は、右城戸が控訴状に訴訟印紙を貼用しなかつたためのものであること、原告が被告より受取つた訴訟委任状を前記高等裁判所へ提出していたこと、原告が被告から同三四年四月一日供託金として使用する金二〇万円を受領したこと、本件被告を原告とし城戸ハルコを被告とする前記控訴事件が前記の如く控訴状却下命令でもつて終了したことは、いずれも当事者間に争がない。

2、被告は抗弁において、被告が原告に支払つた前記控訴審手数料金一〇万円につき、被告が原告にその返還債権を有すると主張して、先ず右債権をもつて原告の本件報酬金一七万円の債権とその対等額をもつて相殺した旨主張するのでこの点につき判断する。

(一) <証拠>および弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められ、証人横山フデの証言中その認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信できず、他にその認定を覆えすに足りる証拠はない。

被告の先代亡村田次七は、福岡市鳥飼町五丁目四〇三番地所在宅地723.96平方メートル(二一九坪)を所有し、これを訴外上口孝男外一〇名に賃貸し、右一一名の借地人は右土地上に、いわゆる大濠商店街を形成し商業を営んでいたのであるが、昭和三二年頃、右次七と右借地人間に賃料をめぐつて紛争が生じ、右借地人全員が原告となり次七を被告として地代減額請求の訴を福岡地方裁判所へ提起し、原告は右次七から右事件の訴訟委任を受けこれに応訴し訴訟追行にあたつていたところ、同三四年一月頃次七は罹病し癌の疑があるということで次七の妹訴外横山フデに伴われ東京の逓信病院へ入院してしまい、その後は次七の雑用の処理にあつていた訴外古賀盛が原告事務所に来訪し事件の打合せ等をしていた。しかるに、右次七は同年三月三日死亡し被告が同人を相続したが、原告は引続き次七の遺志にそい、前記訴訟事件の解決にあたつていた。ところが、同年五月二七日頃になつて、原告は前記古賀から突如、次七の死亡直前、古賀は次七から頼まれ司法書士に依頼し次七を原告、城戸ハルコを被告として前記次七所有の福岡市鳥飼五丁目四〇三番地所在の宅地723.96平方メートル(219坪)に対する所有権移転請求権保全仮登記抹消登記手続請求の訴を提起したが、被告城戸ハルコは所在不明だから公示送達の申立をしてその訴訟は簡単に処理できるだろうと予測していたところ、裁判所の警察署に対する所在調査嘱託の結果右城戸の所在が判明し口頭弁論期日が指定され呼出状が送達された旨の報告を受け右訴状を示され、その善処方の相談を受けた。原告としては次七につきその専断的性格が強く相当の財産を有しながら親族との交際がない等の知識しか有せず、その家庭状況等については全く不明であり、城戸との間の仮登記の存在もその時点において初めて知り得たことであるし、次七と城戸とが同棲し別居した当時の事情を知る者は殆どなく、加えて城戸を被告とする前記訴状記載の事情について果して如何なる立証方法があるか、万が一立証がつかない場合には前記宅地について次七が、ひいては本件被告村田ヒサ子がその所有権を失う結果となることを考え極度に困惑した。しかし結局は右城戸との間の訴訟事件にのみ専念することとし、本件被告から訴訟委任を受け右訴訟の追行にあたることになつた。相手方城戸ハルコは同年九月には本件被告に対し前記宅地につき自己名義に所有権移転登記手続を請求する反訴を提起したところから事案は一層複雑化し、原告としては証拠方法の蒐集、期日における立証活動に多大の労力を傾けざるを得なかつた。その結果同三八年一月一七日に至り、本件被告村田ヒサ子勝訴の第一審判決が言渡されたのである。

しかして、相手方城戸ハルコは右判決を不服として福岡高等裁判所へ控訴し、同裁判所における第一回口頭弁論期日は同三八年四月九日午後一時と指定された。その前日である四月八日相手方城戸の訴訟代理人が原告の所に来訪し、右期日変更申請につき同意を求められたが、原告としては本件被告村田ヒサ子から控訴審における訴訟委任状を未だ受取つていなかつたので即答せず、右委任状を受取つた翌四月九日右委任状とともに前記期日変更申請に対する同意書を前記高等裁判所へ提出した。右裁判所より指定されていた同三八年四月九日の第一回口頭弁論期日は、相手方訴訟代理人の期日変更申請が許容されて延期となり次回期日として同三八年五月一四日午後一時が指定された。その後前記の経緯をもつて右訴訟事件は終了したのである。

(二) 鑑定人三原道也の鑑定結果によれば、弁護士が訴訟代理人として委任を受けた場合には、おそくとも委任者より委任状を受取つたときから委任された事案に対して直ちに勘案研究を始め、また事案に対し訴訟代理人として必要かつ適切な処理を講じなければならない義務を負い、同時に委任者に対し委任契約による権利を取得するに至るところ委任者より支払いを受けた手数料(着手手数料、着手金ともいう)はこの受任の着手の対価であり、委任を受けた訴訟事件がその後短期間内に終了した場合であつても、これを委任者に返還すべき義務を負うものでないと解される。

(三) 前記(一)において認定した原告が本件被告村田ヒサ子と城戸ハルコとの間の訴訟事件を受任するに至つた経緯、その事案の複雑さ、立証活動の困難度に、右鑑定の結果を併せ考えると、原告は右村田から右事件の控訴審における訴訟代理を委任され、その訴訟委任状を受取つたときから、第一審以来の事案に対する勘案考慮を持続したものと認め得るから、右事件が前記の如く相手方に対する控訴状却下の命令でもつて終了したとしても原告は、受領した控訴審手数料金一〇万円を委任者たる右村田に返還すべき債務を負うものではないといわざるを得ない。

(四) したがつて、被告の原告に対する右手数料金一〇万円の返還債権は存在せず、右債権をもつて原告の本件報酬金債権に対する相殺の自動債権としたとの被告の主張は理由がない。(鳥飼英助)

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